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化学

素材で世界を支える —— ただし「総合化学」は解体と選択の時代へ

化学は自動車・電機・半導体などあらゆる産業の素材を供給する裏方。日本の総合化学は幅広い事業を抱えてきたが、 近年は不採算事業の切り離しと選択・集中が進む。三菱ケミカルは産業ガス(旧・大陽日酸)が最大セグメント、 住友化学は医薬(住友ファーマ)の不振に苦しみ、東レは炭素繊維で世界的な地位を持つなど、各社の色が分かれている。 信越化学は半導体シリコンで世界首位(別テーマ「半導体」も参照)。下表は各社の全社連結。

各社の全社連結(横断比較)

数値は各社の最新の全社連結(有報ベース)で、当該業界の事業“単独”ではない。 決算期は会社ごとに異なる(最新を含む期: 2026年3月期 前後)。

セグメント別(主戦場/非主戦場)

各社の事業別セグメント売上・利益。この業界の主戦場に当たるセグメントには主戦場を付けています。主戦場が見当たらない会社は、その事業が独立セグメントとして開示されていない(=全社の一部に埋もれている)ことを意味します。

三菱ケミカルグループ株式会社主戦場側

セグメント(事業別)売上高営業利益資産設備投資減価償却セグメント間取引構成比
産業ガス主戦場1.35兆円2007億円2.80兆円1132億円1293億円71億円38.0%
スペシャリティマテリアルズ1.06兆円323億円1.41兆円1316億円667億円148億円29.8%
基礎材料・ポリマー7907億円-42億円6999億円357億円359億円309億円22.2%
MMA・誘導品3519億円-15億円5018億円232億円234億円126億円9.9%
セグメント別の売上高など、有報のセグメント情報注記から抽出(事業別)。構成比は売上高に占める各セグメントの割合(セグメント間取引・調整前)。会計基準やタグ付けにより取得できる科目は会社ごとに異なります。

国内最大の化学。ただし最大セグメントは産業ガス(旧・大陽日酸)で、石化の分離・再編を進めてきた。

旭化成株式会社主戦場側

この会社は当該期の収録データに事業別セグメントの売上・利益が含まれていません。

住宅(ヘーベルハウス)・マテリアル・ヘルスケアの3本柱。化学会社だが住宅が大きい特殊な構成。

東レ株式会社主戦場側

セグメント(事業別)売上高営業利益資産設備投資減価償却セグメント間取引構成比
繊維1.05兆円680億円1.04兆円317億円346億円13億円41.0%
機能化学品8944億円563億円1.16兆円527億円502億円110億円34.9%
炭素繊維複合材料主戦場3001億円176億円8336億円453億円319億円9億円11.7%
環境・エンジニアリング2669億円288億円3832億円91億円89億円570億円10.4%
ライフサイエンス524億円-1億円717億円30億円32億円—2.0%
セグメント別の売上高など、有報のセグメント情報注記から抽出(事業別)。構成比は売上高に占める各セグメントの割合(セグメント間取引・調整前)。会計基準やタグ付けにより取得できる科目は会社ごとに異なります。

繊維が最大セグメントだが、炭素繊維複合材料(航空機・圧力容器向け)で世界的な地位を持つ。

住友化学株式会社主戦場側

セグメント(事業別)売上高営業利益資産設備投資減価償却セグメント間取引構成比
基幹・グリーンマテリアルズ主戦場6788億円144億円6399億円182億円192億円46億円29.7%
ICT・モビリティ5742億円530億円7226億円530億円337億円10億円25.2%
アグロ・ライフソリューション5193億円563億円8196億円158億円212億円11億円22.7%
住友ファーマ(医薬)4519億円1084億円7859億円81億円208億円14億円19.8%
先端医療586億円28億円1252億円96億円78億円138億円2.6%
セグメント別の売上高など、有報のセグメント情報注記から抽出(事業別)。構成比は売上高に占める各セグメントの割合(セグメント間取引・調整前)。会計基準やタグ付けにより取得できる科目は会社ごとに異なります。

石化(基幹材料)に加え、医薬の住友ファーマを傘下に持つ。同社の不振が全社業績を大きく振らせてきた。

信越化学工業株式会社非主戦場

この会社は当該期の収録データに事業別セグメントの売上・利益が含まれていません。

半導体シリコン(ウェハ)で世界首位。塩ビでも世界大手。詳細は別テーマ「半導体」を参照。

世界の状況

日本の上場企業だけでは業界の全体像は見えない。世界の主要プレイヤーを並べると、 この業界で日本勢がどの位置にいるのかが分かる。棒の長さは規模(売上・総資産・台数など)の目安。

① 世界の化学大手 売上比較

日本最大の三菱ケミカルグループでも、独 BASF の約 3 分の1 弱。規模では欧米・中国勢に見劣りする。

#プレイヤー売上(原文値)定義・期間
1BASF(独)
€59,657M
暦年2025・全社
2Sinopec(中・化学セグメント)
RMB 4,641億元
暦年2025・化学セグメント(消去前)
3Dow(米)
$39,968M
暦年2025・全社
4Linde(英米・産業ガス専業)
$33,986M
暦年2025・全社
5LyondellBasell(蘭米)
$30,153M
暦年2025・継続事業ベース
6三菱ケミカルグループ日本
¥3兆7,040億
2026年3月期・継続事業(田辺三菱製薬を除く)
7東レ日本
¥2兆5,851億
2026年3月期
8信越化学工業日本
¥2兆5,740億
2026年3月期
9住友化学日本
¥2兆3,285億
2026年3月期・医薬(住友ファーマ)を含む
各社公式決算の原文値。決算期が異なる(欧米・中国=暦年2025、日本=2026 年 3 月期)。棒と並び順は ECB 年平均レートによる編集部の概算=非公式。 定義も揃っていない:Sinopec は化学セグメント(セグメント間消去前。石油元売であり化学専業ではない)、Linde は産業ガス専業、 LyondellBasell は継続事業ベース(前期は組替により $40,302M → $33,394M と再表示)、住友化学は医薬(住友ファーマ 4,519 億円)を含み億円精度。 三菱ケミカルグループは BASF の約 1/2.7(=約 3 分の1 弱)。 出典: 各社公式決算(Annual Report/SEC 提出/HKEX 開示/決算短信)

② 規模と儲けは別物 —— 営業利益率で見ると逆転する

売上では下位でも、信越化学の利益率は突出する。逆に規模上位の Sinopec 化学セグメントは営業赤字。 「大きいほど儲かる」は化学では成り立たない。

#プレイヤー利益率(2025-2026年)指標名・補足
1信越化学工業日本
24.7%
営業利益率(営業利益 6,352 億円)
2三菱ケミカルグループ
6.1%
コア営業利益率
3東レ
5.5%
事業利益率(事業利益 1,419 億円)
4Sinopec(化学セグメント)
営業赤字
営業損失 RMB 146 億元
利益率の指標名は各社で異なる(営業利益率/コア営業利益率/事業利益率)ため厳密な同一比較ではない。 信越化学は売上で東レとほぼ同規模(2.57 兆円 対 2.59 兆円)ながら、利益率は約 4.5 倍。 出典: 各社公式決算

③ 特定分野では世界を取る —— 東レの炭素繊維シェア

規模で負けても、素材の特定分野では日本勢が高いシェアを持つ。東レの炭素繊維がその代表例。

#プレイヤー東レのシェア(2021年時点)区分
1ラージトウ炭素繊維日本
49%
産業用途向け(安価・大量)
2炭素繊維 全体日本
42%
レギュラートウ+ラージトウ
3レギュラートウ炭素繊維日本
36%
航空機等の高性能用途
東レ自社資料に記載されたシェア(2021 年時点・同社推計)。同社の現行資料(統合報告書 2025)には炭素繊維の数値シェアも 「世界首位」という自称も見当たらないため、本ページでは「世界首位」とは断定せず、時点付きのシェアのみを示す。 圧力容器用(CNG・水素タンク向け)炭素繊維については同社が「世界 No.1 シェアを維持」と自称している(数値の開示はなし)。 出典: 東レ『IR Day 2023(中期経営課題 事業説明会)』(2021年時点)

業界の変遷(年表)

いまの勢力図がどう出来上がったのか。主要な出来事を時系列で並べる。各行の「出典」は発表元の一次資料へのリンク。

  1. 2005-10

    三菱化学と三菱ウェルファーマ(現・田辺三菱製薬)が株式移転により持株会社「三菱ケミカルホールディングス」を設立した。

    出典: 三菱ケミカルグループ 公式「沿革」
  2. 2006

    東レがボーイングと 787 向け炭素繊維複合材料の包括的長期供給契約を締結(2021 年までの 16 年間。主翼・尾翼・胴体向け)。日本の素材が最新鋭機の骨格になった。

    出典: 東レ IR 資料「炭素繊維複合材料事業の事業戦略」
  3. 2012-04

    旭化成が米 ZOLL Medical(救命救急機器)を約 22.1 億ドル(1株 93 ドル)で買収完了し、ヘルスケアを柱に加えた。

    出典: 旭化成 プレスリリース(2012-04-27/合意 2012-03-12)
  4. 2014-11

    三菱ケミカル HD が大陽日酸を連結子会社化(議決権は 51% を上限とし、上場は維持)。産業ガスがグループの柱になった(2020 年に日本酸素ホールディングスへ商号変更)。

    出典: 三菱ケミカルグループ 公式「沿革」/連名リリース(2014-05-13)
  5. 2015-08

    旭化成が米ポリポア(リチウムイオン電池用セパレータ)の買収を完了し、電池材料へ踏み込んだ。

    出典: 旭化成 プレスリリース(2015-08-27)
  6. 2017-04

    三菱化学・三菱樹脂・三菱レイヨンが統合し「三菱ケミカル」が発足した。

    出典: 三菱ケミカルグループ 公式「沿革」
  7. 2020-03

    三菱ケミカル HD が田辺三菱製薬を完全子会社化し、医薬をグループに取り込んだ。

    出典: 三菱ケミカルグループ 公式「沿革」
  8. 2024-03期

    住友化学が営業損失 4,888 億円・当期損失 3,118 億円を計上。医薬品セグメントのコア営業損益が前年度 +162 億円から −1,330 億円へ悪化したことが主因(住友ファーマの不振)。

    出典: 住友化学 2024年3月期 決算短信/連結決算概要(2024-05-15)
  9. 2025-07

    三菱ケミカルグループが田辺三菱製薬の全株式(約 5,100 億円)をベインキャピタル傘下へ譲渡。2020 年に完全子会社化した医薬を 5 年で手放し、「総合化学」の解体が進んだ。

    出典: 三菱ケミカルグループ 適時開示(2025-02-07)
  10. 2026-02

    三菱ケミカルがコークス・炭素材事業からの撤退を決議(非経常損失 約 850 億円)。「中国における過剰生産やインドネシアでの大規模な新規設備稼働に起因する世界的な供給過剰」を背景に挙げた。

    出典: 三菱ケミカルグループ 適時開示(2026-02-02)

よくある質問

化学業界の主な上場企業はどこですか?

化学業界の主な上場企業には、三菱ケミカルグループ株式会社、旭化成株式会社、東レ株式会社、住友化学株式会社があります(日本国内の上場企業ベース)。

化学業界の世界の主要プレイヤーはどこですか?

① 世界の化学大手 売上比較によると、BASF(独)(€59,657M)、Sinopec(中・化学セグメント)(RMB 4,641億元)、Dow(米)($39,968M)、Linde(英米・産業ガス専業)($33,986M)、LyondellBasell(蘭米)($30,153M)が挙げられます。